人類の進化の歴史の中で起きた直立二足歩行は、人体に大きな二つの変化をもたらしました。一つは歩行に必要のなくなった前足が手となって発達し、手の発達が知能を発達させ、頭部の肥大化が起こりました。
一方、直立したために子宮の天地が逆転し、子宮口が下になったため、胎児の成長につれて子宮口に重力が加わり早産しやすくなりました。
しかしあまり早すぎると、未熟児性が強すぎて生まれた後に成長できず、かといって他の哺乳動物と同じ程度まで体内で育つと頭部が産道を通過できなくなるため、産道をギリギリで通過できる大きさに育ったとき陣痛がつき、やっと出てきた胎児には未熟児性が少ないので成育できて子孫を残せたのです。
すなわち産道通過性と未熟児性という二つの相反する要素のせめぎあいの中で行われる人類の分娩においては、母体の側は骨盤や軟産道をできる限り広げ、胎児の側も頭の骨を重ねることによって頭部の断面積をできるだけ小さくするという、両者の必死の努力によって達成されるのです。通常の生理現象にある十分な機能的ゆとりが全くなく、生理機能の最大能力(100%)を発揮して行われる非生理現象であることがわかります。
このことは人類の分娩の歴史を見れば一目瞭然です。死産や母体死亡がいかに多発していたかがわかります。これは人間の身体特性がもたらす宿命であり、いかに注意を怠らず努力しても不幸な結果を0%にすることはできないことを理解してほしいのです。
そしてこのリスクの高い非生理現象によって生じる残念な結果を、限りなく0に近づけるように努力をし、世界で一番の安全性を達成しているのが日本の産科医であることを知ってほしいのです。