4.人類の分娩!
それは100±α%の脱出口突破大作戦
私達の皮膚は正常の状態から20%も引っ張れば相当痛く感じます。
それを無視してどんどん引っ張り続け、皮膚がぴりっと裂けたとき、皮膚の最大伸展能力の100%を越えた力が加わったことになります。
お産の時にはしばしば皮膚や筋肉や靭帯が切れてしまうことがあります。
会陰切開は必ず裂けてしまうことを前提とした処置です。もしもお産が最大能力の20〜30%で行われる生理現象ならば会陰裂傷は起きない筈です。
また、分娩の時に産婦さんが痛さのあまりに握っている青竹を握りつぶしてしまうという現象も痛みが生理的な範囲をはるかに越えたものだということを物語っています。

つまり分娩は機能的最大能力の20〜30%で営まれる生理現象などではなく最大能力100±α%で成立する非生理現象だと認識したうえで分娩を介助しなければならないと思います。
産道通過性を100とした場合、赤ちゃんの大きさが99であれば、上手にいきみをリードすれば産道や赤ちゃんに損傷は起こらないはずなのです。
しかし、赤ちゃんが101以上の大きさであれば、産道の筋肉を100%弛緩させてどんなに上手にリードしても裂傷やその程度によっては恥骨結合離開などの母体の損傷、それがなければその代償としての赤ちゃんへの強い圧迫による過負荷が生じてしまいます。

田中ウイメンズクリニックでは始めから会陰切開を行いません。
麻酔、会陰マッサージによって筋肉や皮膚の伸展性を100%引き出し、痛さによって無我夢中で力むのをやめれば赤ちゃんの対産道99%のお産は裂傷を起こさないはずだからです。
しかしながら対産道101%以上ではどんなに上手にリードしても切れてしまうので、当院のお産では約半数が裂傷なし、半数は会陰切開が加えられています。

近年女性の社会進出がめざましいのは非常に喜ばしいことですが、その結果、高齢初産が増加している傾向は産科医にとっては、クリアすべきハードルが高くなるということになります。。
何故なら人間も動物の一種である以上、子孫を残すのに最も適した年齢というものがあり、それは20代の前半なのです。同じ女性なら25歳で産むのと35歳で初産を迎えるのとでは難易に格段の差があり、後者では別人のように不利な要素が多くなります。

たとえば軟産道の伸展性の低下などは代表的な例です。例えば一本の筋繊維が断裂するために要する「引っ張る力」は、10代の筋繊維は19グラム、20代では15グラム、30代はたった13グラムの力で切れてしまうからです。この事実は加令によって軟産道の筋群の伸展性がいかに低下するか、靭帯で連結されている骨盤の拡張性がいかに少なくなるかを物語っています。従って35歳の初産の方は、妊娠中に体を10才若くする努力をし25歳相当のお産を実現して欲しいと思うのです。それは妊娠中に良く体を動かし汗を流すことによって達成されます。



5.直立2足歩行の分娩への影響
では、どうして人類のお産に限って機能的余裕の全くない、最大努力が要求される異常現象なのでしょう。それは、ある時人間が2本の足で立ち上がって歩き始めたからということはもう御存知(今月の特集:人間のお産はどうして大変なの?〜2本足のデカ頭〜)ですよね。
  1. 知能の発達(頭部の肥大化)→(産道通過性)
  2. 子宮の倒立(早産傾向)→(未熟児性)
直立2足歩行の分娩への影響人類のお産は未熟児性の側からは「マダ、ハヤイ!イマデルト、イキノコレナイ!!」と警告され産道通過性の面からは「ハヤク!ハヤク!モウスグデラレナクナル!!」とせかされ相反する二つの要素のせめぎあいの中で、何とか産道を通過できる大きさまで胎内で育ち、少しでも未熟児性を減らしながら、ギリギリの産道を通り抜けるという人生の最初にして最大の試練に立ち向かうのです。HARA-Indexが限りなく1に近いのは人類の分娩だけは機能的予備力の全くない異常現象(100±α%)言ってみれば「苦難の脱出口突破大作戦」であることを示唆するものと言えましょう。
この人類に限って課せられた大きな難関を突破する胎児の体力や機能に良い影響を与え、母体の分娩機能を増進させるためには、日頃から体をよく動かすことがとても大切です
何故ならば、現在の私たちの生活をふり返ると正しい人間の生き様からかけ離れて悪くなったことが二つあります。
いや、二つしかないと言ってもよいでしょう。
それは人間があまりにも体を動かさなくなったこと。
もう一つはグルメ嗜好で栄養の摂り過ぎと、間違った栄養学のもとに食生活が行われているというこの二つです。

次号をお楽しみにさて皆さん、人のお産というものがいかに生理機能の
ぎりぎりのところで行われるすごい仕事だ
ということがおわかりいただけましたでしょうか?
このことについては今後もまた様々な話題で
触れて行きたいと思います。

では、次号でお会いいたしましょう。
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