これからの日本のお産

〜産科施設の選び方〜

[doc] どーも、どーも皆さん、
またもご無沙汰しちゃってスミマセンねえ。
〈田中ウイメンズ・クリニック〉院長の
田中でございます。

<今月のお勉強>コーナーでは、
妊P予備群の方やパパ予備群の方にも
ぜひご覧になって考えていただきたい話題、
「これからの日本のお産」〜産科施設の選び方〜
についてです。

日本のお産は変わらなければなりません。
近年の女性の社会進出は目覚ましいものがあります。そのことは大変素晴らしいことです。
ただ、その事実は高齢出産と少子化を促進し、実は私たち産婦人科医には頭の痛い問題を含んでいます。一例一例の分娩が以前にも増して大切で、難しい分娩が増加するからです。

「お産は人間の自然の営みなのだからなるべく自然にまかせ、医療の助けを借りないほど良いお産」という考えがあります。
しかし我が国でこれから出産する女性達は生まれてからずっと快適な環境で育ち、「心地よさ」を追求する生活に慣れ、苦痛を我慢することはおよそ不慣れです。冷暖房完備、電化による不活動、車社会、グルメの追求といったおよそ自然でない生活習慣にどっぷりとつかって生きて来た人達にお産は自然の営みだから医療の助けを借りずに頑張りなさいと言うのは酷なことではないでしょうか。何故お産に限って文明の恩恵に浴せないのでしょう。それも産痛という桁違いの激痛に限ってひたすら耐え忍ばなければならないのでしょう。私は全く逆だと思います。妊娠中をなるべく自然の営みに沿った生き方(直立二足歩行によって成立した人の身体特性に則した生活(妊P創刊号特集「人間のお産はどうして大変なの?」))で心身を鍛えておいて、お産の時は最新の医療技術をフルに利用して安全性と快適性を追求する方が現代に生きる人間の分娩だと思います。

人の分娩における頭部の肥大化というデメリットに対し、知能の発達によって得た医学の進歩というメリットを最大限に利用してこそ理にかなった分娩法であり、医学の助けをできるだけ借りないということはメリットを捨ててデメリットだけで勝負するということではないでしょうか?
従来まで日本で行われてきた大部分の分娩のように、ただ自然の成り行きを待って妊Pご自身の痛みに耐える努力にまかせ、「いざというとき」に医学によって救い出すのではなく、「いざとならないように」医学によって管理するのがこれからのお産だと思います。

21世紀はボーダーレスの時代。外国人の妊Pにも納得してもらえる医療でなければなりません。
欧米では「Pain management」と言って患者の苦痛を取る医療が発達しています。分娩においても欧米医学先進国で最も広く普及している無痛分娩をわが国でも普及させる必要があります。フランス・アメリカでは硬膜外麻酔による無痛分娩は今や100%に近づきつつあるのです。
1回目のお産をどのように経験するか、分娩時の痛みがどうだったかは、次の出産を考える時に大きく影響します。
硬膜外麻酔による無痛分娩は少子化を食い止める最良の対策でもあり、広く普及させなければなりません。
緊急の帝王切開で赤ちゃんを救い出すことが決まってから実際に手術が始まるまでの時間は短いほど良いのですが、アメリカ産婦人科学会は、決定から開始まで「30分以内」が標準的医療という指針を発表しています。
当院では胎児の心音の悪化(胎盤早期剥離)で緊急帝王切開を決定後17分で執刀し、無事母児を救命した経験がありますが、これはあらかじめ硬膜外麻酔ですぐに手術に移行できる態勢が整っていた事が大きく貢献しています。
さらにこの異常が平日の診療時間内に起きたのも幸運だったと言えます。
このような事が深夜や休日などに起これば人手が揃うのに時間がかかるのです。
当院では急変に対する対応能力の高い診療時間内に分娩を行う努力をしています。
 
結論:産科施設の選び方
  1. 分娩法そのものの安全性を比較するだけでなく、選んだ施設で最も普通に行われている分娩法が、その施設で産む場合の最も安全な分娩法です。つまり自分がどのようなお産をしたいかをはっきり決めてその分娩法をいつも実施している施設を選ぶことが大切です。
  1. 多くの利点を持つ硬膜外麻酔分娩は、心臓病や糖尿病・高血圧症を合併した妊娠、高齢初産や骨盤位分娩、双胎妊娠などハイリスク妊婦では安全性が高くなる(医学的適応)と言われています。
    今後日本においても普及して行くと見られますし、また普及されなければならないと思います。
では、また次号でお会いいたしましょう!
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